規格作成の背景

この規格は、宿泊施設が環境への影響を改善し、社会的交流を促進し、地域経済に積極的に貢献するのを支援することを目的としており、観光宿泊施設が持続可能性マネジメントシステムを実施するための環境、社会、経済的な要求事項を規定し、人権、従業員とゲストの健康と安全、環境保護、水とエネルギーの消費、廃棄物の発生などの問題に対応しています。

観光業は世界最大かつ最も急速に成長している経済セクターの1つであり、毎年何十億人もの人々が旅行しています。その数は2030年まで毎年3.3%増加すると予想されています。現在、観光業は世界的にCOVID-19のパンデミックにより甚大な影響を受けていますが、COVID-19終息後は再び大きな成長を遂げることが予想されます。

観光業は日々成長しているだけでなく、様々な国や文化の間の相互理解と平和を促進し、多くの雇用を創出し、世界中でますます関心の高まる国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」で示された17の目標の多くに直接貢献するのに理想的な領域とも言えます。そして、宿泊施設はあらゆる観光活動の中心であり、環境への影響を改善し、社会的交流を促進し、地域経済に積極的に貢献する大きな可能性を秘めています。その意味で、観光業、そして宿泊施設は持続可能な開発を促進する上で最大のプレーヤーの1つであり、持続可能な社会に対する潜在的な影響は非常に大きいと言えるでしょう。

このような状況の中、宿泊施設に特化した持続可能性マネジメントシステムの要求事項を規定したISO21401は、これからの持続可能な社会に向けた取組みの中で、非常に大きな意義をもつと言えます。

規格の概要

ISO21401は、持続可能性マネジメントシステムを実施するための環境的、社会的、経済的要求事項を規定しており、人権、顧客と従業員の安全衛生、環境保護、水・エネルギー消費量・廃棄物削減、地域経済の発展といった、持続可能性に関連した広範な内容が含まれています。

ISO21401は大きく分けて箇条1から10までの「本文」と、AからDまでの「附属書」から構成されています。

<本文>
序文
1 適用範囲
2 引用規格
3 用語及び定義
4 組織の状況
 4.1 組織及びその状況の理解
 4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解
 4.3 持続可能性マネジメントシステムの適用範囲の決定
 4.4 持続可能性マネジメントシステム
5 リーダーシップ
 5.1 リーダーシップ及びコミットメント
 5.2 方針
 5.3 役割、責任及び権限
6 計画
 6.1 リスク及び機械への取組み
 6.2 持続可能性目標及びそれを達成するための計画策定
7 支援
 7.1 資源
 7.2 力量
 7.3 認識
 7.4 コミュニケーション
 7.5 文書化した情報
8 運用
 8.1 運用の計画及び管理
 8.2 変更された活動、製品又はサービスの取扱い
 8.3 サプライチェーンの管理
9 パフォーマンス評価
 9.1 監視、測定、分析及び評価
 9.2 内部監査
 9.3 マネジメントレビュー
10 改善
 10.1 不適合及び是正処置
 10.2 継続的改善

<附属書>

A:持続可能な宿泊施設のための環境要求事項
B:持続可能な宿泊施設のための社会的要求事項
C:持続可能な宿泊施設のための経済的要求事項
D:持続可能な観光のための実践例

上記から分かるように、「本文」の部分はISOマネジメントシステム規格の共通構造を示した「附属書SL」とほぼ同じになっており、固有の箇条としては8.2と8.3が追加されている程度です。従って、この部分はISO9001やISO14001といった他のISOマネジメントシステム規格とほぼ共通した内容になっていると言えます。

これに対して、A~D(特に要求事項であるA~C)で「宿泊施設の持続可能性マネジメントシステム」に関するかなり具体的な取組みに関する要求事項が含まれており、実質的にはこの附属書にある要求事項をチェックリストのように使用して自らの持続可能性に対する取組みを検証し、不足しているところ補足していくことができるでしょう。

導入のメリット

宿泊施設がISO21401に基づく持続可能性マネジメントシステムを導入し、適切に運用することで得られるメリットとしては以下のようなことが考えられるでしょう。

  1. 自然環境や地域社会に対して自分たちの活動が与える悪影響を最小化し、それらに対する貢献を最大化するための組織的な取組みを促進することができる。
  2. 持続可能性に対する従業員やスタッフの意識を向上させ、仕事に対するやりがいや満足度を高めることができる。
  3. 持続可能性に対するゲストの共感を高め、満足度やロイヤルティを高めることができる。
  4. 地域コミュニティとの関係を向上させることができる。
  5. SDGsへの社会的な関心が高まる中、自分たちの持続可能性(サステナビリティ)に対する具体的な取組みの姿勢を、国際的に認知されたISO規格に基づいて対外的に示すことができ、ブランドイメージを高めることができる。